あおもり昆虫記
オナガアゲハ

 大学生のとき、部の同僚に「富士山の3.776mを完全登山しよう」と物好きな提案をした。つまり海抜0mから山頂までほぼ一直線に歩き、「日本最大の標高差」を体験しようという、駄洒落的ロマンあふれる計画。一笑に付される、と思ったのに、同僚も十分物好きだったようで、二つ返事でわたしの計画に乗ってくれた。

 静岡県田子の浦の海に片足をつけてから山頂を踏みしめるまで1週間かかったが、富士市を抜けてから登山口にたどりつくまでが大変だった。一直線に歩こう、と気張ったため、森も藪もなんのその、きまじめに真っすぐ北を目指した。しかし、藪の中は、いくら頑張ってもなかなか進まない。しかも雨。へとへとに疲れて藪を一つ抜けたら、目の前に草原が広がっていた。雨が上がり、そこは“チョウの王国”だった。

 無数のモンキアゲハ、ジャコウアゲハ、クロアゲハ、オナガアゲハが悠然と飛び回っていた。疲れが極限に達していたため、チョウの舞う光景が現実のものとは実感できず、白日夢のようにぼんやりとチョウたちを見続けた。いずれも初めて見るアゲハばかり。中でも、ゆるやかに飛ぶオナガアゲハの優雅さには素朴に感動した。

 白日夢のような乱舞から約20年後。2回目にオナガアゲハを見たのは青森市野内川の林道で、だった。5月下旬。雪解け水でぬれた道に舞い降り、水を吸っていた。満腹になると舞い上がる。が、高いところは飛ばない。感激したのは、優雅にゆっくりと飛ぶ姿は、20年前、富士山麓で見たときと同じだったことだ(当たり前だが…)。林道には1匹しかいなかったが、瞬時にあのチョウたちの乱舞が思い起こされた。

 ところでオナガアゲハの学名はPapilio macilentusという。ラテン語辞典を引くと、Papilioはチョウ、macilentusは「やせた」という形容詞。つまり、羽が細いチョウという意味だ。いわゆるアゲハの仲間の属名はPapilio。チョウという単語を属名に当てたということは、アゲハがチョウの“代表”と考えたのだろう。このPapilioは、フランス語のパピヨン(チョウ)に発展する。

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アゲハチョウの仲間 | あおもり昆虫記インデックス

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