あおもり昆虫記
アゲハ

 いつでも買えるから、と思いつつ買うのを忘れていた音楽CDがいつのまにか廃盤になり、手に入れるのにずいぶん苦労したことがある。気に入った柄のネクタイを見つけても買うのがおっくうで「ま、いいや、そのうち」なんて思っていたら売れてしまい、その柄は二度と入荷しなかった、という経験もある。

 わたしにとって、そのうちなんとかなる型の虫はアゲハだった。ごく普通のチョウのせいか、わたしは「そのうち撮るさ」と写真を撮っておらず、スライドコレクションにアゲハが無いことに気づいたのは、なんと40歳近くなってからのことだった。そのとき、まさか向こう4年間、アゲハの撮影に苦労するとは夢にも思っていなかった。

 当初、撮影場所のあてがあった。弘前市桔梗野小学校の生け垣だった。1960年ごろ、同小の周囲にはカラタチが植えられており、産卵のため飛来するアゲハを多く見かけた。カラタチはアゲハの食草で、幼虫はカラタチの葉を食べて成長する。わたしは学校帰り、虫網を手に同小を訪れ、網を振ったものだった。

 そこで、撮影は楽勝、のつもりで同小に行ってみたら腰を抜かした。カラタチの生け垣は無粋な金網フェンスに代わっていたのだった。慌てたわたしは、弘前市役所に問い合わせてみた。当時弘前市役所は都市景観の観点から公共施設や民家の生け垣を調べていたのだった。しかし答えは「カラタチを生け垣に使っている家は現在、弘前市内には無い」だった。わたしの落胆は大きかった。

 アゲハはカラタチなど柑橘類を食草にするため、郊外や野山にはいない。カラタチなどが植えられている街で多く見られるという、昆虫界随一の“都会っ子”だ。しかし、食草の場所を知っていないと待ちかまえての写真は撮れない。

 落胆したわたしはその後、青森市内で飛んでいるアゲハを何回も見た。青森市中央1丁目の、当時のわたしの借家の庭もアゲハの通り道(アゲハの仲間は飛ぶコースが一定する習性があり、そのコースは蝶道と呼ばれている)で、悠然と行き来するのを指をくわえて見るだけだった。ユリの花などが庭にあれば吸蜜におびき寄せ、写真撮影ができるのだが、わたしの庭は放任園。つまり雑草だらけで、アゲハが好む花は無し。アゲハはわたしの庭を無視し続けた。

 しかし5年後、偶然にもアゲハが吸蜜に訪れる花木を見つけた。ところは青森市のど真ん中、青い森公園。会社のすぐそばだ。まさに灯台もと暗し、だった。

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