あおもり昆虫記
ウスイロササキリ

 こいつは忍者だ。それも、とびきりの。なんてったって、芸をするのだから。もっとも虫は、意識して芸をするわけではない。本能のおもむくままにする。だからすごい。

 晩夏から秋にかけて、草原に足を運ぶと、足元一帯からシリシリシリ…という虫の鳴き声が聞こえてくる。秋の虫というと夜に鳴くイメージが強いが、日中の大合唱。シリシリ…とシリシリ…が混じり合い、あたり一帯がサーツという“膜”で覆われているような錯覚すら覚える。

 この音源がウスイロササキリという小さなキリギリスの仲間だ。

 鳴き声を聞くのはたやすい。立っているだけで耳に飛び込んでくるからだ。しかし、鳴いている姿を見ようとすると、これがなかなかの難題だ。文字通り、音はすれど姿は見えない。多分、20cmぐらい前−それこそ鼻先で鳴いていると思われるのだが、姿が見えない。本当に見えない。

 そこで、身をかがめ顔を近づけて見るが、それでも見えない。頭に来る。額から汗が流れ落ち、目がしみる。が、ここであきらめると、この虫の鳴いている姿は見ることができない。我慢、我慢。呼吸を整え、再度挑戦。ようやくその姿を見つけ、びっくりする。本当に目の前で鳴いているのだ。体の色が葉と同じで、しかも細長い体を細長い葉や茎に平行に止まらせているため見つけにくいのだ。まさに“木遁の術”だ。

 これだけでも一級忍者の免状をあげたいのに、芸をするからたまらない。

 十和田市相坂の沼の岸辺。アシの葉先が少し変だ。よく見たら、葉先に止まっていたのはウスイロササキリ。丁寧にも逆立ちし、後ろ足をピンと伸ばしていた。後ろ足の色はあめ色、アシの葉先もあめ色。なんという芸、なんという本能。全くアシの葉先になりきっている。親から教育的指導を受けたわけではないのに…。この素晴らしい場面を写真に撮ろうとしてがく然となった。カメラにフィルムは1枚も残っていなかったのだ。不覚であった。

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キリギリスの仲間 | あおもり昆虫記インデックス

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