あおもり昆虫記
ヤブキリ

 50歳を越えても、生き物を飼いたい、という気持ちは強い。

一番の夢はアクアリウム。部屋に大型水槽を置き湖沼や海の生物を飼う−。一日中眺めても飽きないと思う。だが、引っ越し商売の身にとって無理な話。というわけで昆虫を時々飼うことになる。

 1983年8月。蔦温泉で、わたしの車に侵入してきたヤブキリを捕まえた。無性に飼いたくなった。

 実は、ヤブキリの鳴く音をそれまで知らなかった。聞いてはいるのだろうが、認識できていなかった。で、家に持ち帰り、鳴くのは今か今かとジッと待ったが、虫カゴのヤブキリは、環境の激変に戸惑っているせいか、なかなか鳴いてくれない。翌日、申し訳け程度に鳴いた。ジリ、ジリ…。その“悪声”ぶりにたまげ、少しガッカリした。

 ヤブキリは、キリギリスの仲間では最も気性が荒い。非常に獰猛な性質で、セミ、ガの幼虫、小昆虫を捕食するなど肉食性が強い。前足の脛節にはとげがたくさん生えているが、これは肉食性の種に見られる特徴だ。このようなギャング風情の虫だから、キュウリだけなら物足りなかろう、とタンパク源として鰹節を与えた。この鰹節が効いたのか、ヤブキリは鳴きに鳴きまくった。さすがのわたしも思わず「ウルセーな、この野郎」と毒づくほどの騒々しさだった。

 鳴きやむことを知らなかったヤブキリだが、11月になると動きが鈍くなり、静かになった。これは可哀想、と虫カゴを出窓からストーブの部屋に移してやったところ、元気を取り戻し再び鳴き始めたから、もうピックリ。

 結局、採集してから4カ月目の12月中旬に昇天したが、虫カゴに横たえた姿を見たら後羽がスリ切れ、短くなっていた。延々4カ月間も鳴き続けた名残−。思わずジンときた。信心深くないわたしだが、玄関のそばにヤブキリの遺骸を埋め、墓標として割りバシを一本立て、手を合わせた。そうせぎるを得ない気持ちになっていた。

 ある年の夏の夜、青森市の月見野霊園にいた。一帯の樹上からヤブキリの大合唱が土砂降りのように聞こえてきた。そのすさまじさに圧倒され、呆然と立ち早くした。ヤブキリは本来、樹上性の虫なのである。

 夏から晩秋まで、県内各地の低山地から山にかけて広く分布する。白神山地にも梵珠山にも東岳にも…。木の上から、セミとは違ったジリジリジリという耳障りな声が聞こえたらヤブキリだと思えばいい。そして、森全体から騒音が降ってくるように聞こえたら、ヤブキリに間違いない。

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