あおもり昆虫記
キリギリス

 寓話「アリとキリギリス」の影響だろうか。日本人の多くに「鳴く虫の名を挙げてください」と質問すれば、まず十中八九、一番先にキリギリスと答えるだろう。丈の高い草原を好み、炎天下の昼間にしわがれたような声でギース、チョンと繰り返し鳴く。けっして美声ではない。むしろ悪声に近い。寓話はもちろんだが、昔からペット屋でよく売られていること、夜に鳴く虫と違い日中鳴いて声が目立つこと−などから全国的に知名度が高いのだろう。

 しかし本県では、キリギリスの仲間ではヤブキリとヒメギスが圧倒的に多く、「キリギリス」は、発生する場所が極めて限られ、なかなかお目にかかることが出来ない。

 わたしの長年の課題の一つが、キリギリスの写真を撮ることだった。なにしろ1960年ごろ、十和田市の郊外の草原で見て以来、さっぱりキリギリスにお目にかかることができないできたのだ。普通種だと思っているのに、目にするのはヤブキリだけ。そのうち、本県では普通種ではなく、産地が極めて限られている珍しい虫であることを知る。

 だいぶ前、岩木山ろくの岳で1回見たが、撮影に見事に失敗。その岳温泉の売店にキリギリスがいっぱい売られていた。店の人に「どこから採ってきたのか」と聞いたら「子供たちがその辺で採ってきて売りに来る」という答えだった。が、“その辺”がくせもので、わたしがいくら“その辺”を探してもキリギリスはいなかった。いらいらが募っていた1994年晩夏。同僚が「これ、キリギリスじゃないでしょうか」と虫篭に入れて会社に持ってきた。まさしくキリギリスだった。

 場所は、北八甲田・田代平の草原だった。同年は仕事と天気の関係で行けなかったが翌95年、満を持して出掛けた。キリギリスはいた。35年ぶりの対面。「ギース、チョン」。昔と同じ鳴き声だった。撮った。うれしかった。

 カメラのファインダーを通してキリギリスをじっくり見て、感じることがあった。キリギリスは緑一色の虫だと思い込んでいたのだが、実際は緑と薄茶色のツートーン・カラーで、むしろ薄茶色の割合が多かった。意外だった。

 が、冷静になって考えると、草原は緑一色ではない。枯れ草もあれば土も露出している。体に薄茶色が交じった方が、自然の色に同化し、敵の目をくらませることができる。なんて合理的なのだろう。感心するとともに、キリギリスは緑一色だと思っていた自分の思いこみのいい加減さにあきれた。

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