あおもり昆虫記
ヒメクサキリ

 1988年8月下旬、4年余り住んだポロ借家から、青森市郊外のアパートに引っ越した。“転地療法”のためだった。

 わたしは1980年ごろから、秋になると毎年、アレルギー性ぜんそくに悩まされ続けてきた。特に84年前からひどくなった。なぜだろう、と考えた結果、家に原因があるのではないか、と思った。日が全く差さず、湿気があり、カビ臭い家−。常識で考えただけでも体に良いわけがなく、それならば、と目いっぱい日が差し込むアパートに移り住んだわけだ。

 新しい住まいで、わたしを真っ先に出迎えてくれたのがヒメクサキリ(姫草キリギリスの意味)だった。夜になるとジーッ、というけたたましく大きな声で、長く一本調子で鳴く。うるさいくらいの鳴き声。いや、実際、うるさい。この”大声”の持ち主は、まさしくヒメクサキリ。鳴き声は近い。アパートと管理人の家の間の空き地から聞こえてくる。カメラを用意し懐中電灯を持って探しに出た。

 が、近づくと、あまりの大声のためどこで鳴いているのか、さっぱりわからない。おまけに草色をして体が細長いから、周囲の草と同化してしまい、見つけにくいことおびただしい。しかも夜。電灯をあちこちに向けるが、見つけられない。すぐ目の前で鳴いているはずなのに。

 次第にわたしは焦ってきた。「管理人に見つかったらどうしよう。新しく越してきた奴は、夜中に空地で電灯をゆらゆらさせる挙動不審なので要注意人物、と思われたら大変だ」と考えると、ますます焦る。

 が、ようやく目の前で鳴いている姿をとらえることができた。心底からほっとした。安心したら、余裕が出て、虫が鳴きながら長い触角をぐるぐる回していることに気がついた。鳴くのは雄の求愛行動。雌の臭い(フェロモン)をキャッチしようと、レーダーの役目を持つ触角を回しているのだろうか−。そんなことを考えながら、わたしはカメラのシャッターを押し続けた。

 その後、管理人から何も言ってこない。また、ぜんそくも起こっていない。

 毎年、夏の夜、家の周りでヒメクサキリは鳴く。変わらぬ大声で。ルルルルと穏やかに鳴くカンタンの声を聴きながら酒を飲むのは気分がいいものだが、ヒメクサキリの声は酒とは合わない。いくら虫好きのわたしでも長く聴いていると我慢できない。そんなときは窓を閉め、窓越しにヒメクサキリの声を聴きながら酒を飲むことにしている。

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