あおもり昆虫記
コノシタウマ

 ある年暮れのある日の夕方。会社の写真部のソファーでくつろぎながら、写真部員と写真ものの新聞連載記事についてああでもないこうでもない、と話し合った。その中で意見が一致したのは、自然ものの写真連載をするときは、よほど写真をとりそろえてからでないと連載を始めることはできない−ということだった。逆に言えば、写真の撮りおろしをしながら連載を続けることは無理、ということだ。

 その理由について「虫の場合、決まった季節、決まった場所に狙っている虫が必ずいるとは限らない。僥倖でシャッターを切り、次第に虫の写真のコレクションが増えていく、というかんじですね」とわたし。「風景だってそうさ。同じ雲、同じ光、同じ色の写真を2回撮ることは不可能だよ。折り折りのシャッターチャンスを期待するしかないね」と写真部員。

 この会話をしながら、アサギマダラの思い出が脳裏をかすめた。

 1990年8月、わたしはアサギマダラという大型のチョウの写真を振ろう、と八甲田のあるポイントに計5回ぐらい足を運んだ。友人のUは「夏、そこへ行けば40−50匹もいるよ」と教えてくれたが、わたしはついに1匹の姿も見ることができなかった。虫の写真というのは狙っても撮れないもんだな、とつくづく思ったものだった。

 アサギマダラを待つことに飽きたわたしは気晴らしに十和田湖に足を向けた。子ノロ近くの雑木林で何の気なしに大きな石を起こしたら、コノシタウマがいた。カマドウマ、マダラカマドウマは家の中にいるカマドウマ科の虫だが、このコノシタウマは山地性のカマドウマだ。見たのは初めてだった。

 コノシタウマの写真は狙ったって撮れるものではない。断じて撮れない。もしアサギマダラがいたら、もし気まぐれで十和田湖に行かなかったら、もし子ノ口付近で石を起こさなかったら、この虫の撮影はできなかった。

 狙ったものが撮れなかった代わりに珍しい虫が撮れた−筋書き通りいかないところが自然写真の面白さなのかもしれない。その後、どういうわけか、白神山地のブナ林でコノシタウマを3回見た。たまたま僥倖で3回見た。僥倖ってそう何回もあるのだろうか…。さらにその後、青森市の城ケ倉大橋のトイレの中でコノシタウマを見た。カマドウマの仲間は一般的には別名「便所コオロギ」とも呼ばれている。トイレで見たとき、別名を思い出し、つい笑ってしまった。

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