あおもり昆虫記
カマドウマ

 当然のことながら、子供のとき、木造住宅に住んでいた。外側が下見板張りの、あの懐しの“ザ・モクゾー”である。

 当然のことながら、木造住宅には、これも木造の物置が併設されていた。昔の家にはたいてい、台所から戸を開ければ、すぐものが取り出せる機能的な物置がついていたものだった。物置には普通、申し訳程度の小さな窓が1つしかついておらず、昼なお薄暗く、子供にとっておどろおどろしい存在だった。

 当然のことながら、物置にはネズミが出た。貯蔵していた野菜を狙って出没するわけだ。怒った母は“ネズミ捕り”を仕掛けた。おびき寄せるえさは油揚げが多かった。ネズミは面白いように捕まった。このネズミをかごごと川に入れ、溺死させ始末するのが子供−つまりわたしの役目だった。

 「ネズミがかかったよ」と母。

 かごに荒縄を結び、近くの川に沈める光景を頭に浮かべながら物置の戸を開けるわたし。湿った空気とすえたような臭いが体を包む。ネズミはキーキーと狂ったように鳴き続けている。かごに近づいたとき、突然暗がりから何かが跳ね、カサッと音を立てて“着地”した。思わず足がすくむわたし。

 暗さに慣れた目をこらして見ると、わたしを驚かせた犯人は、カマドウマ(竃馬)だった。バッタの仲間だが、はねは無く、背中は丸まって、目もわずかについているだけ。逆に後ろ足と触角は、やたらに長い。虫の姿だけ見るとグロテスクな奴だ、と思うかもしれないが、暗くじめじめした所にいるため、わたしには、陰気な虫、とのイメージが強い。

 やがてわたしは大人になり、親同様、古い木造の借家で長い間暮らした。その家では、物置だけでなく、居間にまでカマドウマが遊びにきた。わたしはカマドウマを捕まえ、子供におもちゃとして与えた。子供がカマドウマで遊んでいるうちに、長い足が1−2本あっけなくもげた。子供は足が少なくなったカマドウマとなおも遊び続けた。その後、足の少ないカマドウマをどうしたのか記憶に残っていない。いま、大人になったわたしの子供は、カマドウマと遊んだことを覚えているのだろうか。

 昔、林の中に棲み、植物性有機物や昆虫の死骸を食べていたカマドウマ。だが、人間が家を建てたら、暖かくてえさも豊富な人家に本拠地を移した。かまどの近くは暖かく、台所もあり好都合。昼は床下などに隠れ、夜に出没し残飯をあさる、というわけだ。しかし、建物がすべてマンションやコンクリートになったら、カマドウマはどうなるのだろう。ふと、らちもないことを考えてみたくもなる。

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