あおもり昆虫記
トノサマバッタ

 ケタ外れに大きいものを見ると胸騒ぎを覚える。虫であればカブトムシだ。でかいカブトムシを見ると、理性に関係なくわくわくどきどきする。会社の同僚の1人もそのような感覚を持っているようで、彼は、バカでかいものを集めたインターネットサイトを見つけ、悦に入っている。

 バッタの仲間では、このトノサマバッタがそのような気持ちにさせてくれる。子供たちの“アイドル”的存在だ、と決めつけたくなるのも、わたしの思い入れが強いせいだろうか。

 とにかく捕えにくい。殺気を感じると20〜30mも一気に飛んでしまう。だから、手にした時の感激はひとしおだ。手の中で、逃げようと後足で踏んばるあの力強さ。逃がすまい、と強く手を掘った子供のころが鮮やかに思い出される。今でもトノサマバッタを見ると胸がわくわくする。

 ある年の夏。30度を超える猛暑の中、八甲田に登った。滝のように汗をかき、全く疲れた。昼ごはんを食べよう、と草原に足を踏み入れ腰を下ろした。と、静寂を破る大きな羽音を立てトノサマバッタが飛び立ち、10m先に降下した。

 血が騒いだ。捕えたくなった。で、帽子を手に、そろり、そろり近づいた。しかし、わたしが近づくとバッタは10m先に逃げる。また近づく。また逃げる。これを3〜4回繰り返し、わたしは簡単にあきらめた。疲れていたし、何より腹が減っていたからだ。

 数日後。わたしは意外な場所でトノサマバッタを捕えた。青森市新町の近くの美容室の戸びら。何気なく目をやったら、戸の桟にトノサマバッタがちょこんと止まっていた。手が届かない。近くの喫茶店からほうきを借りて叩き落とそうと試みたが、あっさり逃げられた。ガッカリして下を見たらアスファルトの上になんともう1匹。

 こちらは首尾よく捕えることができた。喫茶店の人が見守り、美容室の美容師や客は「何してんだろう」という顔をガラス越しに見せていたが、わたしは鼻高々で、喫茶店の人にバッタをあげた。それにしても、なぜあんなところに2匹も…。

 パール・バックの名著「大地」に登場するのは、トノサマバッタの仲間だ。大群をつくって農作物を食い荒らす。バッタの大群の被害は世界的に知られる。北海道でも明治時代から昭和初期まで大発生した、と記録されている。

 最近では1986年、鹿児島県馬毛島で大発生した。幼虫時代を湿潤で食草が豊富な状態で過ごすと体が大型で緑色の孤独相になり、高温・乾燥で過密状態になると体が小型で褐色になり、さらに羽が長く伸び大群になる、といわれている。

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