あおもり昆虫記
イエバエ

 見上げると、夜空が赤く染まっていた。次第に赤さが増し、バチバチという、ものが燃える音が聞こえてきた。「やばい。山火事だ。どうしよう。逃げようか」

 夜の岩木山。わたしたちは、暗闇の中を、百沢から焼止小屋を目指して登っていた。高校2年のときだった。火に巻かれると逃げ場を失う。が、怖いもの見たさで、構わず登り続けた。

 目の前に現れたのは、猛火に包まれた焼止避難小屋だった。弘前の某高校山岳部の部員が、石油コンロの扱いを間違っての失火だった。野次馬根性を発揮して写真を撮るわたし。そばで、「告げ口しないで」と泣きつく失火原因者。後日仕上がった火事の写真は見事なもので、その後、仕事で火事の写真を撮るようになってもこれを上回る火事の写真を撮っていない。

 火災にあった小屋はぼろで大変きたなかった。火事のひと月ぐらい前、この小屋を訪れたときのことを、今でも鮮明に覚えている。

 しぶい戸を開けたら、薄暗い部屋の真ん中に、直径1.5mぐらいの大きな黒い球形状のものが浮かんでいた。それが何であるのかすぐには理解できなかった。理解したときの驚きといったらなかった。それは無数のイエバエの群れだったのだ。小屋の中にある便所から発生したものらしい。近づくと、球形状のものは、黒い幕状に変形し外へ向かった。

 イエバエは、世界各地にいる。ごみや糞に発生するため、人の生活環境だけに住み、自然環境ではほとんど見られない。かつては、どの家庭もイエバエに悩まされ、ハエ捕りリボンが天井からぶら下がっているのが見られたものだが、ごみ収集が進んでからは、あまり発生しなくなった。代わって、ごみ埋め立て地や豚舎、鶏舎などで大発生している。

 清潔な地区で捕らえたイエバエの消化管内には、1匹当たり2万−10万個の細菌があったのに対し、不潔な地区のものは80万−5億個も細菌を保有している、というデータがある。5億。う−む、とうなるしかない。イエバエ、が不潔の代名詞といわれる証左である。

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