あおもり昆虫記
コウカアブ

 かつて雑誌に虫の話を連載していたとき、「こんな虫を取り上げてください」とさまざまなリクエストを受けた。美しい女性の口からこんな言葉が発せられるとは…とたじろぐような注文を受けたこともある。

 「今度はペンジョムシを取り上げてください」

 「あ、いいっすよ」などと気軽に請け負ったのはいいが、はたと因ってしまった。

 ペンジョムシ、ペンジョムシ、ペンジョムシ…。いくら考えてもそんな虫は無いのだ。が、ペンジョムシという名ではなくても、便所にいる虫を取り上げれば、期待にこたえることが出来るのでは、と考え直した。

 便所にいる虫−すぐ頭に浮かんだのはコウカアブ。こどものとき、汲み取り便所の近くや、野菜くずが捨てられたごみため場の周囲をぶんぶん飛び回っていたのをよく見たものだった。とくに、小学校の通学路にごみ捨て場(今のように立派なものではなく、雑木林の一角にただ生ごみを捨てている状態)があり、そこの常連さんはコウカアブだった。

 が、便所が水洗化したり、生ごみを外に捨てなくなってからは、めっきり数が減ってしまった。わたしが1993年、青森市後萢で1匹見て感動し、94年には十和田市切田の牛糞捨て場に多数群がっているのを見てこれも大いに喜んだのは、コウカアブを見かけなくなってから35年近くもたっていたからだった。昔親しくしていた人に35年ぶりに会ったような感じだった。

 コウカアブ。考えてみれば変てこな名だ。コウカとは漢字で書けば後架。禅寺の洗面所転じて便所、という意味だ。要するにペンジョアブのことだが、それじゃ味気ないというか無粋というか。で、学者が知恵を絞った結果、命名したのがこの名前らしい。

 その後、ペンジョムシを所望した美女のご主人と会ったとき「ペンジョムシとは、どの虫を指しているのか聞いてくれないか」と頼んだ。何日かたったあと、ご主人いわく「ワラジムシのつもりで頼んだのだそうです」

 なるほど。しかし、ワラジムシは、便所とは縁が無い。枯れ葉など有機物を食べて分解し、土にかえす”掃除屋さん″だ。ワラジムシの名誉のために述べておく。

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