あおもり110山
(ますかわだけ  713.7m  外ケ浜町=旧三厩村)
 
■ 幻の津軽半島縦貫道路

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登山道沿いに群落をつくっているシラネアオイ。山頂に導いてくれるように美しい花を咲かせる=1997年6月13日
 存在感のある山だ。三厩村の後背地にどっしりそびえている。その増川岳の山頂に小さな祠(ほこら)がある。以前、ここを訪れたとき、だいぶ傷んでいるなあ、と思っていたが、その後再び登ったら、祠が新しくなっていた。

 長年、増川営林署に勤め、1998(平成10)年3月に退職した東賢一さん(60)が造りなおしたものだ。その前の祠も同営林署に勤務していた奈良貞治さんが造るなど、山項の祠は、老朽化するたびに代々の署員が造りなおしてきた。

 このように、営林署員が祠づくりに携わっているのはあまり例が無い、という。

 「みんな、危険と隣り合わせの仕事をしているから、安全に心を配り、信仰心に厚いんです」と東さんは、署員たちの気持ちを代弁する。

 一帯は、下北半島とともに良質な青森ヒバの生産地。昔から活発に施業が行われてきた。増川岳は、その中心に位置している。険しい地形での事に長い間携わった。「危ない目に何回も遭いました」と東さん。ヒバの丸太を満載したトロッコは、カーブが難所だった。加速がつきブレーキが利かない。川砂を焼いたものをレールにまいても止まらないときは、脱線の寸前、カーブの内側に飛び降りなければならない。トロッコは遠心力で脱線、人力で線路に上げなければならなかった。

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営林署員が代々造ってきた山頂の祠。森林従事者の心の支えだ=1998年5月10日
 トラクターによる原木搬出もひやひやものだった。「急な斜面で直径1.5メートルのヒバを引っ張ると、トラクターがスケートのように下に向かって滑って行くんです。運転していて、本当に気持ちが悪かった」と振り返る。

 今でこそ景観に配慮し、伐採場所を選びながら慎重に施業をしているが、当時は切り出すだけ出そう、という風潮が強く作業は荒っぽかった。だからこそ作業する人たちは“神頼み”で安全を願ったのだろう。

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どっしりとした山容の増川岳=1997年11月10日、今別町山崎の国道280号から
 東さんも毎年12月11日の“山の神の日”に増川岳の下にある祠に必ずお参りし、1年の無事を感謝するとともに来年の無事を祈ったものだ、という。山頂の祠は奥宮で、行けない人は代替の下の祠に足を運ぶ。

 6月の増川岳は気持ちがよい。みずみずしい若葉に包まれた精気あふれるブナ林の、つづら折りの登山道を登り詰めると尾根に出る。そこには見事なシラネアオイの群落が広がっている。下では危険な仕事が続けられているのに、花は何事もないかのようにやさしく揺れている。山の懐は深い。

<メモ> 全国的人気の「増川ヒバ」

 増川営林署の97年度の林産物収入は8億5千万円。ヒパ販売が90%以上占める。林産収入額は青森営林局管内では、大畑営林著に次いで2番目の成績を誇り、黒字経営を続けている。「増川ヒパ」の名が全国銘柄になっており、青森県内の住宅建築はもちろん、岐阜、長野、名古屋などの神社仏閣用に使われ他県での人気が高い。西力男署長は「材質が柔らかくて加工しやすく、強度があり光沢も良いと評価を得ている」と言う。

(2009/9/27 東奥日報朝刊に掲載)本文中の、市町村名、人の年齢や肩書きは、取材当時のものです


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