あおもり110山
(あさひなだけ 719.8m 田子町)
 
■ 重要なロボット雨量計

写真
ロボット雨量計に登り、太陽電池と送信機を設置する八戸測候所職員=98年5月26日、朝日奈岳山頂付近
 歩き始めて約30分。道の無い林の中を慎重に進んで行ったら、先頭が叫んだ。「アンテナが見えたぞー」。八戸測候所の“ロボット雨量計管理隊”は無事、朝日奈岳山頂付近にある雨量計を探し当てた。いつもであればかなり迷って探すというが、今回はすんなり探すことができた。

 馬淵川上流の降水量を把握し洪水警報・注意報の発表に役立てるため、気象庁は1957(昭和32)年11月、朝日奈岳にロボット雨量計を設置した。降水量0.5ミリごとに自動的に信号を発信する仕組みで、朝日奈岳から発信された電波は、46.5キロ離れた測候所を経由して東京のアメダス・センターに送られる。青森地方気象台は、センターからデータを取り出して予報の判断材料のひとつにしている。

写真
なだらかな山容の朝日奈岳=98年5月26日、田子町根渡地区から
 管理は測候所が担当、春(98年は5月26日)に電池と送信機をロボットに設置し、秋に回収している。職員にとって、年に2回の登山。地味な作業だ。

 ロボットに着いた3人は早速、背負ってきた電池と送信機の設置作業に取り組んだ。以前の電池は巨大なものだったが、今は手のひらに乗るほど小さな太陽電池。その上に針金を2本立てた。鳥がとまってふんを落とさないように、という“鳥よけ”だ。

 送信機をはめ込み、テスト開始。職員が鉄柱によじ登り、持ってきたテスト用の水を雨量計に入れた。電波が正常に飛んでいるのかどうかの確認は携帯無線機で行う。

 測候所「雨量5.5ミリをカウントしました」

 朝日奈岳「了解。さらに2ミリ送ります」

 測候所「2ミリカウントしました」

写真
小型・軽量化された太陽電池。左下にあるのは送信機=98年5月26日
 機械は正常に動いていることが確認され、3人はようやくほっとした表情を浮かべた。98年3月に測候所に赴任してきた主任技術専門官の小林剛さん(39)にとって初めての体験。「道が分からなくて困った。ここは気象業務で重要なポイントなので経験するために来た」と語った。

 このロボット管理は以前、かなりきつい作業だった。開局時から23年間、管理を担当したのが測候所長の吉田光雄さん(59)だ。「今は車でかなり上まで行けるようになったが、当時は登山だけで1時間かかった。それに電池の材料が重く、電池を作るための水くみも大変だった」と吉田さんは振り返る。

 この電池は空気湿電池といって、陽極の粉と陰極の粉をまぜ、水を加えて作る。かなりかさばるため、現地で作った。雨量測定用と送信用それぞれの電池計12個を作るため、沢から両手にバケツを下げ、2往復して水を運んだ。

 吉田さんは言う。「三八地方の洪水予測のため朝日奈岳のデータは必要だ。雨量を把握しないと予報が出せない。重要なポイントだと認識している。確かに苦労はあるが、これが仕事だと思う」。かつてロボット雨量計は県内に5カ所あったが、現存しているのは朝日奈岳、田茂萢岳(八甲田)、障子山(下北)の3カ所。朝日奈岳の重要さの証左である。

 やぶをこいで山頂に登ってみた。「朝比奈大明神 昭和十年」と刻まれた小さな石碑が立っていた。が、近年、人が訪れた気配は無い。かつては信仰の対象だったが、今は測候所職員しか登らない山になってしまったのだろうか。

<メモ> 97年から馬淵川洪水予報

 建設省青森工事事務所と青森地方気象台は1997(平成9)年から、馬淵川洪水予報を始めた。大雨で洪水の恐れがあるとき、建設省が設置している11力所の水位計のデータと気象台の降水予報などを解析し「馬淵川の○○地区で何時ごろ、水位が○○メートルになる」と予測し、県や報道機関に通報するもの。しかし、予報の対象は河口から10キロまでのため、その上流の予報を出すにはロボット雨量計のデータが必要となっている。

(1998/7/11  東奥日報朝刊に掲載)本文中の、市町村名、人の年齢や肩書きは、取材当時のものです


「あおもり110山」インデックス  |  青森県の山々「朝日奈岳」


HOME