2001年2月19日(月) 東奥日報 ニュース


■ 討論…ITERを誘致すべきか

 原理的に臨界事故は起こり得ず、高レベル放射性廃棄物も出ないため、クリーンエネルギーとされる核融合。その核融合による発電が技術的に可能か検証する国際熱核融合実験炉(ITER=イーター)を日本に誘致すべきか否かの議論が大詰めを迎えている。本県は、七十ヘクタールの土地需要が見込め、国際科学都市ができるとして、むつ小川原地域への誘致に積極的だ。原子力委員会の有識者会議も昨年十二月、国内誘致の方針をいったん固めたが、核融合炉の実現性や巨額の資金を投入することに疑問の声も。ITERを日本へ誘致すべきか。

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<反対>

小柴昌俊・東大名誉教授

こしば・まさとし 専門は素粒子物理学。米ロチェスター大学大学院終了後、東京大学原子核研究所助教授などを経て同大学教授。97年まで東海大学教授。フンボルト賞、文化勲章など受賞。74歳。>

 −核融合は”二十一世紀の夢のエネルギー源”などと形容される。

 「核融合炉は暴走することはない−というのは本当だと思う。ただ、ITERが新しいクリーンなエネルギーの開発につながると考えたら大間違いだ。重水素(D)とトリチウム(T)をぶつけてエネルギーを取り出せる核融合炉を本当に造るとすれば、われわれが経験したことのないような強力な中性子が大量に出てくる。一体どうやって、それに耐える炉壁を用意するのか。そんな材料なんて今どこにもない。致命的ともいえる欠陥だ」

 −中性子が炉壁を直撃して放射線損傷が起こるということか。

 「そうだ。中性子が材料を構成している原子核をどんどん壊していく。大量の高速中性子が物質に当たったとき、どういう障害・変化が起きるかというデータは僕の知る限りではない。実験をきちんとやって大丈夫と言うのなら、D−T反応で実用化を目指すという線もある。しかし、そうでないなら、炉壁を損傷する中性子が出ないようなヘリウム3と重水素、あるいは重水素と水素二個の三体反応などを取り上げるべき。実用化を目指すのならば、条件が難しくとも、そういう道を進まなければならない」

 「かつて、科学技術庁のPR誌『科学技術ジャーナル』(一九九七年十一月号)の巻頭言で同じ警告をしたことがある。その原稿を科学技術庁に送ると、途端に核融合開発室長らが自宅に飛んで来て『この原稿が出れば、予算が取れなくなる。何とか変えてくれ』と懇願した。そこで、室長らの一行に『中性子の問題は一体どうするつもりか』と僕が聞くと、『壁をすぐ交換できるよう設計してある』『大体、半年に一遍交換する』と答えたので、『半年に一遍、何カ月もかけて取り替えたら稼働率はどうなるのか。放射化した壁をどう処分するのか』と聞いたが、僕を満足させられる返事はなかった」

 −放射化された構造物がそのまま放射性廃棄物になるという問題もある。

 「原子炉(核分裂炉)は半年ごとに炉壁を取り替えたりしないが、それでも放射性廃棄物がたまってたまってしょうがない。仮に出力百万−数百万キロワットの核融合炉を実現できたとして、放射化された炉壁を半年ごとに交換すれば、廃棄物量はどうなるのか」

 −ITERの誘致国の負担は約四千億円に上る。

 「私が我慢できないのは、新しいクリーンで安全なエネルギーだとムード的に喧(けん)伝されていることだ。そういうエネルギーの実現をだれもが願っているが、ITER推進者は核融合炉をどう実用化させるのか具体的に示していないし、彼ら自身知らない。それなのに、国民の税金を何千億円と引っぱり出そうとするから、『それは違う』と主張しているわけだ」

 「『うんと高温のプラズマの不安定性をきちんと調べること』とITERの目的にはっきりうたうべきだ。学問的研究のためだけに政府が数千億円出すというのなら、私の知ったことではない。しかし、推進論者はできもしないのに『新しいエネルギーにつながるんだ』と言って金を引き出そうとしているから、羊頭狗(く)肉だというんだ」

 −米国は九八年に計画から撤退した。

 「考えなければいけないのは、あの勘定高い米国がサッと抜けちゃったことだ。エネルギー問題はきれいごとでもダメだが、夢みたいなことを言って国民の金をつぎ込んでもどうにもならない。実際に使える核融合エネルギーというのは、今から二十年、三十年と地道な研究が必要だ」

 −青森県と六ケ所村はITER誘致が地域振興につながると期待している。

 「六ケ所村周辺の人々が、新しいクリーンエネルギー発祥の地として繁栄につながると思っていたら大間違い。甘い夢を見過ぎている。地域振興という面から欲しいのかもしれないが、乗せられちゃって大きな施設を抱えたけれど、結局モノにならなかったら後始末はどうするのか」

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<賛成>

石野 栞・東海大教授

いしの・しおり 専門は原子炉材料学。東京大学大学院修了後、同大学教授などを経て94年から現職。東京大学名誉教授。原子力委員会核融合会議委員。67歳。>

 −重水素(D)とトリチウム(T)の反応で出る高速中性子が真空容器を直撃して起こる放射線損傷は致命的との指摘がある。

 「それは核融合炉設計の実情をまったく知らない人の言うことだ。D−T核融合で非常に高いエネルギーの中性子が出るのは事実だ。しかし、プラズマ実験装置ならいざ知らず、核融合炉では真空容器の前に比較的厚い壁のブランケットを置いて遮へいし、中性子が真空容器に直接当たらない設計にするというのが二十年前からの常識だ」

 「ブランケットの壁には中性子が当たるではないか−と言われるかもしれないが、核融合の中性子で起こるのとほとんど同じ条件で、遮へいに使われる構造材がどのぐらい耐えられるかという実験が一九八〇年代後半になされている。その結果、二十年程度は十分耐えられるというデータベースが得られている」

 −損傷を受けた遮へい材は半年ごとに交換する必要があるのではないか。

 「交換の頻度はそれほど大きくない。また、ブランケット全部を交換するわけではない。現在の設計では、プラズマに直面する内壁には飛び散ってもプラズマに影響を与えない比較的軽い元素の物質をタイルのように張る。交換するのはその部分で、すり減ったタイヤだけを交換して、自動車本体は捨てないのと同じこと。量的にも多くないし、放射化もほとんど起こらない炭素材料などが主だ」

 −ITERの運転終了後には、約四万トンの放射性廃棄物が残るのか。

 「そうだ。装置を三十年ぐらい使って、お役御免になったときには核融合炉全体の重量程度の放射性廃棄物が出る。しかし、放射化されるのはプラズマに近い部分だから、四万トン全部が強い放射能を帯びるわけではない。半減期が非常に長い放射性物質はなく高レベル放射性廃棄物が出ないことは核融合の利点の一つだ」

 −燃料として放射性物質のトリチウムを大量に使うことへの懸念もある。

 「確かに、放射化の問題を除けば、トリチウムの取り扱いがD−T核融合で最も公衆の安全性に関係する問題だ。私の専門分野ではないため、詳しく知っているわけではないが、トリチウムを安全に閉じ込める研究は随分進んでおり、安全な取り扱いは十分可能だ。カナダでは、相当量のトリチウムをわざと環境中に放出して、どう広がり、どう生体に取り込まれるかといった実験が行われている。それに何といってもトリチウムは半減期(十二年)が短く、非常に弱いベータ線しか出さない」

 −小柴名誉教授はヘリウム3を使った反応の研究を進めるべきと主張する。

 「研究を進めることに異論はない。ただ、反応の起こしやすさがD−T反応よりケタ違いに難しい。反応が起こったとして、もう一つの問題は荷電粒子が出てくることだ。そのエネルギーをどう回収するのか。荷電粒子は中性子に比べてもケタ違いに損傷を起こす速度が速く、中性子の損傷よりはるかに大変だ。炉設計は発想を転換して一から出直しになろう。D−T反応中性子だとブランケットで緩やかにエネルギーを回収できる」

 −発電しない実験施設に巨額の税金をつぎ込むことへの批判もある。

 「巨額を投じながら、いつまでも実用につながらない実験をやっていてよいのか。ITERは資源制約の少ない、地球環境と人類の繁栄が両立する可能性の大きい核融合の実現への第一歩だ。実現に向けて今後二十年、三十年の地道な研究のための道具である。国内誘致が実現すれば、日本の主導で大型国際科学技術プロジェクトを進める最初の例として、わが国が標ぼうする科学技術立国の真価を問う試金石となる」

 「材料という私の専門分野では、現在、研究の中心は次の発電炉の材料に移っており、ITERの材料についてはほとんど問題にしていない。しかし、立地点を決めるときは、いろいろな情報を流して地元の方々に判断していただくことが大切だろう」

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ITER 太陽と同じ核融合反応による発電の実用化を目指すための試験装置。放射性物質のトリチウムと重水素を一億度以上に熱してプラズマ(熱せられた燃料が原子核と電子がばらばらになって高速で飛び回る状態)をつくり、ドーナツ状の空間に閉じ込めて膨大な熱エネルギーを発生させる。一九八五年の米ソ首脳会談で、東西融和の象徴として計画推進が決まった。日欧を加えた四極の国際協力で八八年に設計が始まったが、約一兆円といわれた巨額の資金が問題となり計画が遅れ、米国は九八年に撤退した。残った三極は装置を一回り小さくしたコンパクトITERに変更した。建設費は約五千億円で、設置国は約四千億円を負担する必要がある。二〇〇五年ごろから十年間で建設した後、約二十年間運転する。本県がむつ小川原地域への誘致を表明しているほか、北海道苫小牧市と茨城県那珂町も名乗りを上げている。国内誘致の方針が決まれば八月ごろ、候補地が選定される見込み。フランスとカナダにも立候補の動きがある。

荷電粒子 中性子が電気的に中性の粒子であるのに対して、陽子やアルファ粒子はプラスの電荷を、電子はマイナスの電荷を帯びている。このように電荷を帯びた粒子をいう。



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