核燃・むつ小川原


■ 「段丘面」の位置付け鍵/再処理工場・活断層問題

 六ケ所再処理工場の直下に未知の活断層が存在する可能性がある−という渡辺満久・東洋大教授(変動地形学)らの研究グループの指摘が波紋を広げている。「事業者の日本原燃の調査は、変動地形学的な研究手法=メモ参照=を適切に活用していない。私の立場は原発反対ではないが、安全性を確保するために、より厳密な再調査を」と渡辺教授は訴える。一方の日本原燃は「変動地形学的な手法も採り入れ、可能な限りの調査を行ったが、そのような活断層は存在しない」と主張する。議論のポイントはどこか、両者の主張はどう食い違っているのかを整理してみた。(編集委員・櫛引素夫)


<渡辺教授東洋大ら>1つの面が変形/逆断層、たわみ生む

六ケ所村内にある出戸西方断層(逆断層)の露頭。左側(西側)がずり上がっている
 議論の出発点は、「下末吉(しもすえよし)面」と呼ばれる、約十二万年前から十三万年前に形成された海岸段丘面=メモ参照=だ。六ケ所村一帯では、その上に、約十一万五千−十一万二千年前に噴火した北海道・洞爺火山の火山灰が載っていることが多く、その後の地形変化の有無を調べる手掛かりとなっている。

 渡辺教授らは、六ケ所村一帯の火山灰の分布や地形・標高、空中写真を詳細に調べた結果、本来なら平たんなはずの下末吉面に「撓曲(とうきょく)」、つまり、段丘面のたわみが表れていると分析した。

 たわみの大きさは、幅一−二キロの段丘面に対し、標高差が三十−四十メートル程度。車で通りかかると見過ごしてしまう緩やかさだが、変動地形学的にみると、平たんであるはずの段丘面の傾きにしては「非常に大きい」(渡辺教授)という。

地表と同じ構造

 さらに渡辺教授らは、日本原燃が実施した地下調査データを調べ、地表面と同じような傾斜を持つ地質構造があることを突き止めた。

 このような特徴を持つ地形ができる原因は、地下深いところにある「逆断層」しかない。それが研究グループの結論だった。逆断層とは、地盤が両側から強く押された結果、地震とともに面的な破壊が生じて、一方の地盤がもう一方の上にずり上がってできる断層だ。

 この「地下の逆断層」は十数万年の間に、数十回にわたって地震を伴う活動を起こし、地盤をたわませながら持ち上げた−と渡辺教授はみる。そして、日本原燃が耐震上、最も重視する「出戸西方断層」は、「地下の逆断層」の活動が生み出した「子分」のようなものと位置付ける。また、「出戸西方断層は約三万二千年前以降に活動しているが、単独ではなく『地下の逆断層』の活動に伴って動いているはず」と推測する。

 渡辺教授らが見いだしたとする撓曲は、再処理工場付近から北北東に延びているという。その延長線上、太平洋の海底には、長大な「大陸棚外縁断層」という断層が存在する。この撓曲を生んだ「地下の逆断層」は、大陸棚外縁断層とはつながっていないのか。それが次の疑問だった。

「大陸棚」検証を

 東通村への原発建設などに絡んで、東京電力や東北電力、海上保安庁が大陸棚外縁断層を調査してきた。また、県も一九九一年、九六年に、独自の調査を実施した。そして、「この断層は七十万−八十万年前以降、活動していない」という結論が一応得られている。

 「しかし、海底の地質調査は精度に限界があり、断層活動の有無を検討しても水掛け論になる。だから、陸上のデータをきちんと検証した上で、大陸棚外縁断層が陸上の断層活動と結び付いていないかどうか、きちんと検証を」と渡辺教授は主張する。

 研究グループが懸念するのは、「地下の逆断層」が想定通り活動し、大陸棚外縁断層とつながっていれば、今後、再処理工場の敷地に大きな地形の「ずれ」が生じ、建造物に大きな被害を与えるのではないか−という点だ。この場合、最大でマグニチュード(M)8級の地震が起きる可能性があるといい、渡辺教授らは、施設の耐震性や「ずれ」対策の検証を提唱する。

 渡辺教授は今後、原燃側の指摘を詳細に検証した上で、さらなる議論や、他の研究者への意見聴取も検討するという。


<日本原燃>もともと3つの面/地盤ゆっくりと隆起

 一方、日本原燃は渡辺教授らの指摘を「新たなデータや知見に基づいたものではない」ととらえ、活断層である「地下の逆断層」の存在そのものを否定する。

 まず、渡辺教授らが「一つの面」と位置付けた海岸段丘面については、ほぼ同じ時代にできた三つの別々の段丘面であり、最近の活断層の活動を反映するものではないとする。

 「下北半島一円は近年、一万年当たり三−四メートルのペースで隆起している。加えて、下末吉面が形成された期間中も、海水面は何段階かにわたって変動していたとされる。両者の要因が組み合わさって、三段の段丘面が出来上がった」というのが原燃の見方だ。

火山灰の層に差

 その大きな根拠の一つは、時代を識別する手掛かりになる「洞爺火山灰」の状況が、段丘面によって微妙に異なることだという。

 原燃のデータによれば、三段の段丘面のうち最も高い面では、洞爺火山灰が、陸上で積もった他の火山灰の間に挟まっている。しかし、次に高い面では、水中で積もった砂層の間に洞爺火山灰が挟まっている。つまり、洞爺火山灰が積もった環境が違うことになり、「これらが一体となって形成された段丘面とは考えられない」と原燃は分析する。

 ただし、このシナリオには前提がある。地震を伴う、断層活動のような激しい地盤の動きとは別の、長期間にわたって、地盤を一万年あたり三−四メートル隆起させる、何らかのメカニズムを想定しなければならないのだ。

 原燃は「このような隆起の原因として、どんなメカニズムが考えられるか、まだ十分に解明されていない」と説明しながらも、現実の地盤隆起にはさまざまな条件が複雑に絡み合っているため、活断層以外のメカニズムもあり得ると強調する。

 さらに原燃は、再処理工場の敷地一帯、半径約五キロ以内のエリアで、人工地震による地震波の伝わり方を調べ、一帯の地質条件を徹底的に調査した。また、東西・南北方向のさまざまな断面で、ボーリング調査を実施。このほか、空中写真の判読から、断層の存在を示すような地形をつぶさに調べた。

 それらのデータに基づき、専門家に助言を求めた結果、「再処理工場の敷地一帯には、施設の耐震設計上、考慮すべき活断層はない」という判断に至った。「もともと、主要施設は地表を掘り下げて、約五百三十万年前の『鷹架(たかほこ)層』という固い地層に直接、建設しており、地形のずれによる影響はない」と原燃は強調する。

最近の活動否定

 再処理工場付近の地下に見られた、傾斜した地層構造については、約五百三十万年前にできた地層が、その後の地層活動などで変形した「向斜構造」だと結論づけ、最近の断層活動によるものではないとした。調査地点によっては、傾斜した約五百三十万年前の地層の上に、少なくとも七十万−八十万年前以前の地層が平らに堆積(たいせき)しており、それ以降の断層活動の影響は見いだせない−と原燃は主張する。

 このほか、太平洋の海底にある「大陸棚外縁断層」は、データを精査した結果、やはり七十万−八十万年前以降は活動していないといい、陸上部分とのつながりも見つからないという。

 なお、渡辺教授は日本原燃に対し、変動地形学的な手法の導入や分析の視点が不十分だと批判しているが、原燃側は「変動地形学の常識は十分に認識しており、手法も採用している」と反論している。


 ◇

<メモ>

・変動地形学的な研究手法

 原子力施設などの耐震性の検証では、以前は、空中写真の判読などによって、直線的ながけをはじめとする「リニアメント」(直線構造)から活断層を見いだす手法が中心的だった。近年は、広範囲にわたる段丘面の変形、並行する河川の系統的な屈曲といった、「変動地形」に関する、より多くの指標を手掛かりとするようになっている。

・海岸段丘

 海岸付近で一定の期間、波の作用で平らに削られた地形が、地盤の短期間の隆起や、海水面の低下に伴い、海岸の背後に階段状に位置するようになったもの。地盤が沈降していたり、海水面が上昇していたりする場合は形成されない。本県では深浦町・千畳敷付近の西海岸などで発達している。




― 段丘面と地質構造 ―
渡辺教授らの見方



「撓曲」


  原燃の見方



「向斜構造」







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