公益財団法人 青森県総合健診センター企画 ― 9月「がん征圧月間」対談 ―

がん対策 早期受診が鍵

9月は「がん征圧月間」。がん検診の受診率向上へ「企業におけるがん検診の推進」をテーマに、県総合健診センターの佐々木義樓理事長と、県商工会議所連合会の若井敬一郎会長(青森商工会議所会頭)が対談した。(コーディネーターは東奥日報社論説委員・清藤敬)

                


 
▽出席者(敬称略)

○佐々木義樓・県総合健診センター理事長

○若井敬一郎・県商工会議所連合会会長(青森商工会議所会頭)

○清藤敬・東奥日報社論説委員(コーディネーター)

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佐々木義樓(ささき・ぎろう)
 1939年、青森市生まれ。弘前大学医学部卒。同大大学院修了。79年、青森市内に佐々木胃腸科内科医院開業。県医師会長など歴任。2011年から現職

若井敬一郎(わかい・けいいちろう)
 1947年、青森市生まれ。拓殖大学商学部卒。72年青森魚類入社。2004年同代表取締役社長、15年同会長に就任。13年より現職
<県内の状況>

 ―がんの死亡状況について教えてください。

 佐々木 ご存知の通り日本人の死因の1位はがんです。厚生労働省の平成26年人口動態統計の概数によると、昨年は約36万7900人の方が、がんで亡くなられています。全死亡者に占める割合は28.9%で、およそ国民3.5人に1人ががんで亡くなっている状況です。前年に比べて約3千人増加しており、この傾向は今後もしばらく続くと考えられています。

 がんの部位別では近年、胃がんで亡くなる方が減ってきましたが、肺がん、大腸がん、乳がんの上昇が大きい状況です。男性では肺がんと大腸がんの上昇傾向が著しく、肺がんは約5万2500人、大腸がんは約2万6千人の方が亡くなっています。女性では、大腸がんが2万2300人、肺がんは2万800人、乳がんは1万3200人の方が亡くなっており、いずれも上昇傾向が続いている状況です。


 ―県内のがんの状況は。

 佐々木 青森県では、概数で昨年は1万7149人の方が亡くなっていますが、そのうちがんで亡くなった方は、5035人で全国と同じく約3割の方ががんで亡くなっています。

 本県のがん登録データを基に分析したところ、がんの罹患率は全国平均とそれほど差はないのですが、死亡率が高いこと、治療が期待できる段階で見つかる割合が全国より低い状況が分かってきています。すなわち、がんの早期発見が少ないことで治療が遅くなり、がんで亡くなる方が多いという状況です。

 また全国と比べて本県ではがんで亡くなる方が40~60代の方々に多く、まさに働き盛りの方々を失っているのです。

 そのため、がん検診を受けていただく方を増やすということが非常に重要なこととなっています。


 ―本県で働き盛りの方々が、がんで多く亡くなっていることを、どのように感じておられますか。

 若井 40~60代であれば、まさに働き盛りです。ご本人はもちろん、ご家族にとっても大変なことですし、企業にとってもマイナスになります。

 健康な従業員がいることで企業が成長するということは最近よく耳にします。いわゆる健康経営というものです。

 年齢を考えれば業務に長年従事している方がほとんどでしょうし、企業の中堅や管理職といった要職についている方が多いのではないでしょうか。中核的存在の方々が病気で亡くなるとなれば、大変な損失です。そう考えますと、従業員の健康管理は企業側にとっても大変重要な問題です。

 がんは、早期に発見できれば治療が可能だと伺っておりますが、発見が遅くなれば治療に時間もかかり、場合によっては命を落としてしまいますし、生活は一変してしまう可能性があります。

 早く見つけるために、がん検診が大切だと感じています。


 ―県内企業が健康づくりに取り組んでいる状況などについてお聞かせください。

 若井 近年、少子高齢化による人口減少や、がんなどを含む生活習慣病の方の増加により、企業では健康な労働力を確保することは重要な課題になっております。またそれとは別にメンタルの健康も大切にすべきことの一つでもあります。

 このような課題を克服するために、先ほども申しましたが「健康経営」という考え方が言われるようになってきました。

 しかし、本県においては、まだまだ企業における健康づくりや健康経営の取り組みが進んでいるとは言えません。従業員の方々への健康教育やたばこ対策、健康づくり活動の推進が課題と言えます。

 そこで私ども商工会議所では、県内で健康経営に取り組んでいる企業を県民に知っていただき、それぞれの企業でも積極的に取り入れていただこうと普及活動を展開しております。

 県内では、青森銀行さんと、みちのく銀行さんが先行して始められました。

 両行とも、お取引先や従業員の健康増進を図るため「健康宣言」を行い、外部機関などと連携しさまざまな取り組みを行っています。

 また、人間ドックやがん検診の受診率向上に向けた取り組みも行っているほか、自治体の認定や、一定の「健康推進基準」を満たす企業に対する低利融資制度を設けられました。

 食事を通じた健康増進も実践されております。青森銀行さんは、弘前大学と花王さんとの連携により、弘前市内で希望する職員を対象に、プログラムに沿った「スマート和食弁当」を昼食として提供しています。みちのく銀行さんは、社食で「ヘルシー弁当」を提供するなど、両行それぞれ従業員の皆さんの健康状態の改善を図られています。これにより皆さんの健康に関する数値が大きく変わっているという報告も聞いております。

 佐々木 がん検診を受けているということを家庭にもフィードバックさせていくこと、また家庭の中で子どもにもがんの知識を持っていただくことが大事です。子どもは将来の日本や青森県を担っていくわけですから、十分な知識を持ってほしい。東京の小・中学校では、がん教育を実施していると聞きます。教育をする前では、「あなたは将来がんになりますか?」と聞くと「なると思う」と答えた人が30%台だったのが、がん教育を受けてから同じ質問をすると「なると思う」と答えた人がなんと60%台になったのです。それだけがんに対する危機感が出たともいえるわけです。

 それから家庭でもがんに関する話をすることは重要です。やはり子どもが健康に対する認識を持って、両親に重要性をフィードバックさせることも大事ですね。

 昨今「ストレスチェック」が取りざたされていますが、昔は自殺で亡くなる働き盛りの方も多かったんですね。しかし青森県は以前と比べ自殺率が減って来ました。またそれによってだいぶ県民の寿命も延びたのではないかと思います。これは国や中小企業の社長さんの社員に対する配慮もあってのことかと思います。

 がんに対する知識を身に付けることが、一つの健康文化として県民に芽生えてくれれば、将来子どもががんになるリスクが生活次第で改善されていくのではないか、という意見もあります。


                

<検診の状況>

 ―県内の職場におけるがん検診の状況を教えてください。

 若井 県内では、企業が健康づくりに取り組んでいるところはまだまだ少ないです。実際のところ、がん検診を受けるには相応の経費がかかります。そのため、職場の定期健康診断などに加えてがん検診まで実施している企業はそれほど多くはないと思います。

 ただ、大企業は福利厚生が充実しているところがほとんどですし、健康経営に取り組んでいる企業では、がん検診を職場の定期健診の一環として実施している場合が多いです。

 1部上場企業では、従業員が40歳になると必ずがん検診を受けさせており、その費用を企業が負担しているそうです。こうすることでその翌年からは、従業員が自分のお金でがん検診を受けるようになると聞いています。

 ただ実際に企業が検診の費用を負担できるかというと、なかなか厳しい面もあります。したがって、がん検診を職場の定期検診の一環として実施しているという例はまだまだ少ないといえます。

 また、健康保険組合によっては人間ドック助成やがん検診の助成などをしている場合もあるので、そういった制度をうまく活用している企業もあります。

 青森商工会議所では、会員共済制度の独自の給付で、健康診断の受診料の一部を負担することを現在検討しているところです。何はともあれ、まずは健康診断から。そこからワンステップ進んで、がん検診につなげていければと思っております。

 
 佐々木 ぜひこういった助成の輪を広げていただき、また従業員の皆さまご自身でも工夫しながら、がん検診を受けてほしいと思います。もう一つわれわれのお願いとして、当センターでは土・日曜日も検診を受け付けているのですが、なかなか休みを取れず検診を受けられないという方が多いので、企業の経営者には休日取得に関するご配慮をしていただければと思います。「年に1回は検診を受けること。これは義務でもある」といった考えが普及すればうれしいですね。

 がん検診については、健康増進法に基づく健康増進事業として市町村が住民検診として実施しています。

 一方、企業のがん検診は、法的な位置付けは明確でなく、職員の健康管理の一環として職場で実施するかどうか、企業によって状況が分かれています。

 当センターの2014年度の実績を見ますと、職場健診いわゆる定期健康診断を受けている方が約8万8千人。うち胃がん検診を受診されている方はその半分程度の約4万8千人。大腸がん検診でも同じくらいです。

 大企業であれば職員の福利厚生も充実している場合が多いので、がん検診を職場の定期健康診断に併せて実施している場合が多いと感じますが、中小企業では職場でのがん検診はなかなか進んでいないのが現状ではないかと思います。

 また、職場でのがん検診を受診されていない方は、休日や年次休暇を取って市町村のがん検診を受けていればいいのですが、実際はそうもいかないのが現状ではないでしょうか。

 なお、職場における乳がん検診と子宮頸がん検診については、受診率がなかなか伸びておりません。女性特有のがん検診ということもあり、職場では実施していないことが多いようです。

 先ほども申し上げましたが、子どもに対しがんの教育をすることで、家庭の中から検診の重要性を指摘する声が出てくればいいと思いますね。

 もう一つの課題は、がん検診の精密検査の受診率が低いということです。

 昔の話になりますが、とある方が胃がん検診を受けて「要精密検査」のチェックを受けたのですが、「自覚症状がないからほっとけばいい」と言っておりました。そして翌年、再度胃がん検診を受けたら、また要精密検査になった。「これは何かある」ということで、当方の病院へ来ていただいたところ、がんの転移がだいぶ進行しており非常に危険な状態で、間一髪セーフとなった事例がありました。

 やはり、自覚症状がないから検診に行かなくていいということではありません。がんというものは、末期にならなければ症状が出ないというのが特徴なんです。それをきちんと皆さんに知ってほしいところです。ですから、助かりたければ症状が無いうちに検診を受けてほしいのです。今は市町村によっては、ピロリ菌の検診というのも進んでまして、がんを根っこから撲滅しようという動きもあります。

 いずれ、「がんはなかなか症状が出ない」ということを家庭にも普及していただければと思っております。


 ―がん検診の精密検査の受診状況について教えてください。

 佐々木 がん検診というのは、何らかの異常があるか、ないかの線を引くためのものです。

 何らかの異常がある場合は、「要精密検査」という結果になります。すなわち、病院で詳しく検査を受けてくださいというものです。

 精密検査の内容は、例えば胃であれば胃内視鏡検査を受けていただく。大腸であれば大腸内視鏡検査を受けていただく。そうすることで、異常がないのか、がんなのか、それ以外の病気なのかが分かります。

 ですが、精密検査が必要な方で病院に行かない方が多いというのは非常に問題です。異常なしとは言い切れない状態なのですから。

 当センターの14年度の実績から見ますと、企業でがん検診を受診され、精密検査が必要となった方の中で、精密検査を受けた方は、胃がん検診では75.1%、肺がん検診では84.6%、大腸がん検診では71%となっており、2割から3割の方が受診されていない状況です。

 検診の結果で精密検査が必要とされた方は、病院で精密検査を受けて初めてがん検診を受けたことになります。

 仕事をされている方々は、日々お忙しい毎日を過ごしています。ですが、忙しいことを言い訳にしないでぜひ精密検査までしっかり受診していただきたいですね。

 若井 要精密検査の人に対し、個人情報の問題はありますが、やはりフォローアップとチェックの体制づくりを各企業でやっていかなければならないと考えます。



                

<今後の展開>
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 ―今までの話を踏まえ、今後のがん対策についてどのようにお考えですか。

 若井 自分の健康は自分で守るという意識が大切だと思います。その上で、企業が健康経営の考えを取り入れ、従業員の健康づくり、健康管理に積極的に協力していくことが大切です。また企業にとっては、受診の状況などをチェックする体制も必要なことです。

 それから配偶者など家族の方で健康診断を受けていない方は、まだいらっしゃると思います。その方々がいかに健康診断を受けるようにするか、こういった意識ががん検診の受診率の向上につながっていけばと考えております。

 がん対策の費用については、国にも補助をしていただきたいところですが、まずは検診を受けること、それから死亡率のトップは「がん」なんだという意識を県民に植え付けることができれば、がん撲滅とはいきませんが、がん患者がもっと減るのではないかと思います。

 佐々木 当センターとしましても、市町村や企業との連携を密にし、がん検診の体制を強化してしっかり取り組んでいくことはもちろんのこと、検診実施機関として、サービスの向上を図り、皆さんが安心して受けられる質の良い検診をこれからも提供していきたいと考えています。

 現在、国の政策では、がん検診は市町村が実施主体となっておりますが、実際のところ市町村で実施しているがん検診は思うように伸びてはいません。

 我々としても就業されている方々に検診が受けやすいように、土日の検診を設定するなど工夫はしています。しかしながらマンパワーの問題などでこれ以上の設定をすることが厳しい状況です。

 がんで亡くなる方が多いことに加えて、40~60代の死亡が多い状況を考えると、就業されている方々ががん検診を受診できる環境づくりは大切です。

 例えば、市町村のがん検診に併せて休暇を取得しやすい環境を整えていただくことや、職場の定期健診にがん検診を加えていただくなど、ご検討いただければと考えます。

 また、例えば協会けんぽであれば、「生活習慣病予防健診」といって、がん検診がセットになった健診があります。健康保険組合の制度をうまく活用するのも一つの方法ではないでしょうか。

 いずれにせよ、「がん」はそれぞれの部位の検診を受けない限り見つけることはできませんので、何度も申しますが、企業側には今まで以上にがん検診の機会をつくっていただきたいと強く願っております。


 ―がんで死なないためには生活習慣の改善と、がん検診を受けることが大切ですね。

 若井 生活習慣の改善についてですが、現在はほとんどの企業で全館禁煙あるいは分煙が進んでいます。また食事の面から健康に気を遣う啓発活動も進んでいます。しかし、がんのことについては、ジャンルが少々違うとこともありますので、多くの方に受け入れてもらえるような企業のシステム作りが急務と言えます。

 また、たばこ対策について言えば、県南地区でたばこを生産している農家さんが多いですから、そちらとの整合性は重要です。たばこから他の農作物に転作すると補助金が出たりするなど、県全体でのフォローアップも大切です。

 元気に生活するためには、健康管理は非常に大切です。ご自身の健康管理のため、職場の健康診断結果を大事にしていただきたいと考えていますし、がん検診もぜひ受けていただきたいです。

 企業によってはがん検診までなかなか踏み込めないところもありますが、市町村のがん検診を受診するなりいろいろ取り組みが可能なこともあります。

 私どもとしましても、がん検診の普及に向けて何ができるのか、検討していきたいと考えています。

 また、禁煙対策、分煙対策や健康経営に取り組んでいる企業を紹介するなど情報発信を強化していきたいと考えているところです。

 いずれにせよ、従業員の皆さんが健康であることが本人、ご家族のみならず企業や地域にとって基本となることですから、各機関が手を取り合っていろいろとアプローチできればと考えております。

 佐々木 たばこ対策については、喫煙者に「たばこを吸うな」とはなかなか言えないものですが、吸う本数をなるべく減らしてもらうこと、そして大勢の人がいる中ではなるべく吸わないように心掛けてほしいところです。やはり副流煙の害が大きいものですから、たばこを吸うにしても分煙をするなどさまざま工夫が必要かと思います。

 それから健康づくりは非常に重要です。日々の生活に運動を取り入れることなどが一例ですが、運動不足のお父さん・お母さん方にはぜひ頑張ってほしいですね。

 やはり県民一人一人が意識を持って生活を変えていかなければ、ひいてはがんになることを予測して行動しなければ、がん患者は減らないということですね。

 がんによる死亡率を減らすためには、減塩、禁煙、お酒の量を減らす、そしてがん検診の受診率を高めることが大事です。それから野菜をたくさん採ることや運動、また地域ごとに生活改善普及員がいることも大切なんです。身近な人同士で健康づくりをするということですね。

 先ほども申しましたが、青森県はがんで亡くなる方が全国で最も悪い状況です。全国と比べると40~60代の働き盛りの方で亡くなる方が多い。そういう状況だからこそ、早期発見がとても重要なのです。

 2人に1人はがんにかかり、3.5人に1人ががんで亡くなる時代です。

 決して他人ごとではありません。医療が進み、がんを早期に見つけ、しっかり治療することで、がんで命を落とすことなく、生活ができるようになりました。

 また、早期がんの治療は、入院期間が短く、内視鏡手術や局所治療が可能な場合があります。社会復帰が早くなるわけですから、身体的、精神的、経済的な負担が軽くなるわけです。

 ですから、皆さんご自身の命は自分で守る意識を持っていただき、きちんと定期的にがん検診を受けていただきたいと思います。

 仕事が忙しいというのを理由にせず、時間をつくって検診を受けていただきたいのです。まさに命あっての人生ですから。


 ―最後に、お2人の健康の秘訣を教えてください。

 若井 私の場合はヨットが趣味なのですが、何か没頭できる趣味などを持つことでしょうか。「病は気から」と言いますが、やはり心が病んでいますと健康にも支障を来すので、自分の心を平穏に保つために、ある程度の気分転換は必要かと思います。

 佐々木 仕事柄ということもありますが、早起きをする習慣を心掛けています。また、昼食の後でも20~30分くらいは休憩を取るようにしています。ですから普段の生活の中で、あまり疲れを残さないように心掛けております。


                

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