奥入瀬の苔ワールド

 奥入瀬渓流沿いで苔玉(こけだま=モスボール)づくりをしている起田高志さんは元プロレスラーだった。25歳で入門したが、けがをして30歳でやめた。格闘技と苔玉のかかわりはいかに?実はプロレスラー時代から盆栽や苔玉で心を癒していたという。

 地元の十和田市に戻り、ふと東奥日報朝刊を見たら、奥入瀬渓流の苔の調査をする記事が掲載してあった。「早速、行ってみたら、なんと、苔がそこいら中にあるじゃないですか!」。「美しい渓流と苔。運命的な出合いでした」と話す。2012年夏から渓流沿いの奥入瀬渓流館に工房を設けて、リングならぬ苔の舞台に登った。

 毎朝、渓流を散歩してはブログで情報発信。「渓流の中の岩が苔むして、木やシダが生えているのです」。ブログと苔玉で奥入瀬渓流の魅力を広く、具体的に伝えていくことに没頭する日々となったのである。


 起田さんは、もう一つ、苔に感動するわけを見つけていた。十和田湖と奥入瀬渓流の歴史を知ったのだ。「千年前に噴火して岩だらけの土地になったが、初めて生命を宿したのが苔なのです。苔が命のゆりかごとして生育して、緑の森になったのです」。小さな苔の背後にある壮大な出来事と自然の歩みにも思いをはせているのだ。


 苔玉に加えて、ひょうたんのランプ作りも始めた。小さな穴でつくる模様は苔の形がモチーフ。「奥入瀬のそこいら中にデザインがある。まさにデザインの宝庫ですね」。そして「ひょうたんからかすかに漏れる明かりを、暗がりで見ると影が実に美しい」。

 奥入瀬モスボール工房とランプ工房では子供らに製作を体験させている。元プロレスラーで腕力が強いので、腕にぶら下がらせてあげることも。奥入瀬の苔と樹木を形にした「こけソフトクリーム」もある。

 起田さんは、奥入瀬渓流の感動を日本にだけ伝えるのはもったいないと、台湾に出掛けて発信している。プロレスラーから転じたプロモスラーは繊細さに加えて行動力も発揮しているようである。

PAGE TOP