首都圏発 東奥トップインタビュー 明日への挑戦


■第2回 阿部隆昭氏(青森市出身) 株式会社グランパ 代表取締役

 
   
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阿部 隆昭(あべ・たかあき)
 1943年5月17日生まれ。青森市出身。青森高校、日本大学経済学部卒業。青森銀行に入行後、柳町通支店長、津軽支店長、東京国際部参与を歴任。香港事務所設立後、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ベルギーへデリバティブ(金融派生商品)を学ぶため、海外出張。同行退社。2004年9月、株式会社グランパ設立。代表取締役就任。11年10月、一般社団法人・施設野菜バンク(略称・野菜BANK)設立。理事長就任



レタス国内シェア10%目指す

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―独自開発したドーム型ハウス植物工場で、葉っぱがギザギザのフリルレタスを栽培しています。日本の農業を変えたいそうですが、思いを聞かせてください。

 青森で生まれて農業を目の当たりにしてきましたが、全般に所得が低く、天候に左右され、収入が不安定で、後継者が出てきにくい。1次産業は下降線をたどりつつありますが、農業は一番必要とされる業種。次の世代につなぐ方法をずっと考えてきて、10年前に腰を上げたわけです。

―農業に若い世代を参入させたいそうですね。

 日本の食料自給率はカロリーベースでピーク時72%程度から現在39%程度に低下。農業就業人口は290万から200万世帯前後に減り続けています。平均年齢が66歳で、60代が60%。これでは日本の農業は立ち直れない。農業就業人口を増やすため、この10年、会社として農業に興味のある若手や熟年、小中学生にも研修講座や実習、体験学習をしています。衰退する農業を活性化させ、魅力ある業種にして、何としても次の世代につなげたいんです。

◇ドーム型 収穫量2.5倍

―取り組んでいるドーム型ハウスの利点は? 何を目指しますか。

 従来型のハウスに比べ、エネルギーコストを40%ダウン、収穫量は逆に2.5倍。露地栽培並みに太陽光などの自然エネルギーを100%近く取り入れています。露地栽培は年1〜2回の収穫ですが、ドーム型ハウスは年10〜12回収穫でき、安価・安全・安心のレタスを安定供給できます。ハウスの初期投資は、耐用年数15年の半分の7年程度で償却できるようにしています。

―高コスト・高価格野菜の従来型ハウスをどのようにして克服したのでしょう。

 従来型のイニシャルコスト(設備導入費用)とランニングコスト(設備運転費用)を乗せた出口戦略・売値は、一般市場では受け入れられない。効率と低コストを目指さないといけないところから、ドーム型の発想が生まれました。同業他社に比べ高効率な機能を備えており、若い人たちにどんどん植物工場にトライしてほしい。1次産業で安定収入を確保し、2次産業、3次産業と同じような所得を得られる環境づくりをしたい。また、心理的に追い込まれたときにはい上がっていく力、よい方向にはい上がっていく努力、思いを持ち続ける生き方をしてほしいものです。

◇安全な食文化守る

―食の安全・安心もキーワードですね。

 当社では月2回の放射能検査と月1回の生菌検査を行っているので、安全で高品質なレタスをつくることができています。また、ドーム型ハウスの中で栽培することにより、渡り鳥からの病原菌や、偏西風によって飛ばされてくる中国大陸(砂漠)の砂ぼこりから野菜を守ることができるので、安全・安心な食文化を作ることにも貢献できます。


安定収入の農業を次世代に

―生産量的にはどの程度を目指すのでしょう。一般社団法人・施設野菜バンク(野菜BANK)を立ち上げていますね。

 全国展開のスーパーなど、大きな取引先への供給に対応するため、野菜バンクを昨年10月、植物工場を運営している全国の仲間と連携して旗揚げしました。連結したコンピューターで在庫量を把握し受注に対応しています。現在25社が加盟し、年間換算で1万トンのレタスを生産しています。レタスの国内年間消費量は48万トンから50万トンですが、自社の農場拡大のほか、加盟社も増やしてシェア10%、5万トンまで引き上げたい。

◇岩手の農業再生支援

―近く東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市にドーム型ハウスを建てますね。

 8棟完成させますが、狙いは二つ。一つは、より省エネかつ高品質野菜を可能にする基盤づくりの実証実験で、7月から来年3月まで実験します。レタスは高原野菜で、日照時間が長く、高緯度な場所が栽培適地ですが、国内の北方なら平地でもできます。もう一つは被災地支援。設置場所はもともと岩手県の園芸研究施設があったところで、雇用対策を兼ねると同時に、被災により生じた塩害に左右されない農業再生を実現したい。同県から高い評価をもらっており、企業人としてはうれしい限りです。2期工事として、隣接地に、さらに8棟をつくる予定です。

―事業の根底には世界の食料危機もある。

 2050年を展望すると、世界人口は90億人を超え、一方、耕作面積は温暖化現象により3割以上減ります。土地が砂漠化し、作物が生産できない状況に。各国で食料問題が深刻になるでしょう。日本は今、安定的な食料基地をどうつくるか大きく問われています。今から計画や戦略を立て、人材を育成するなど農業に参入する環境をつくるべきです。東日本大震災は私たちに大きな教訓を与えてくれました。東北は農業、漁業など食料基地として大きな資源があります。自然環境に左右されない1次産業の形態をつくり込めば、効率的な農業ができる上、40年後でも食料を安定供給できます。

◇日揮・IBMと実証実験

―輸出を視野にソフト確保の取り組みも。

 国は農業の先端技術を輸出産業にしたいと考えており、経産大臣らがドーム型ハウスの視察に来ています。国内上場企業の日揮の出資と技術を植物工場に組み合わせ、海外向けプラントをつくります。国内で遠隔操作できるシステムを構築するため、世界最大手クラスのコンピューター会社IBMと実証実験に入っています。また、園芸分野で米国最大の研究施設があるアリゾナ大学と調印し、ドーム型ハウス内の風の流れを分析し、植物に最適な空調をつくる実証実験に入ります。海外戦略はプラントのハードは海外に持って行くが、ソフトは国内でわれわれがコントロールし、核心技術の流出を避けるのが基本です。

―青森銀行に勤務し、50歳にして転身。ご苦労されたのでは?

 青銀時代、欧米の海外研修の際に週末は農場を見て回りました。日本の個人的農業と異なり、経営としての農業をやっていると感じました。青森生まれで、ずっと自然を克服する農業にしたいという思いもありました。人生の第2ラウンドは資金確保、技術開発、マーケット開拓など、苦労も貧乏もしました。でも、農業にかける強い信念を持って、諦めないでやってきたので、周りの理解が得られたということでしょうね。100歳まで頑張りますよ。

(聞き手=東奥日報社取締役東京支社長兼大阪支社長・鳴海成二)


 ◇

強固な熱意持ち起業/東京支社長の視点

 植物工場に乗り出したのは農業再生、食の安全・安心確保、世界的な食料危機への対応など「時代への視点」があったからだ。経営自体を成立させているのは、消費者目線の徹底したコスト意識、技術革新、人的ネットワーク。しかし、それだけでは同社の今日はないように感じた。会社員として仕事の充実に向かう50歳にして、大きなリスクを負って起業した。なぜ?の問いに、いつか農業を変えたいという考えがずっとあった−と答えた。苦難にも諦めないでやれた、夢は思えば必ずかなう−とも語った。強固な熱意と挑戦心があった。農業県・古里青森活性化への強い思いも隠さない。輸出を含めた事業拡大への布石も打っており、展開が楽しみだ。(鳴海成二)




地図  <会社概要>

■商号 株式会社グランパ

■本社所在地
〒231−0032
神奈川県横浜市中区不老町3−12 第3不二ビル
TEL 045-663-7967
FAX 045-663-7968

■設立 2004年9月17日

■代表者 代表取締役・阿部 隆昭

■資本金 4億円

■年商 10億9000万円(2012年予想)

■事業内容
(1)工場式植物生産システム等の開発・実用化

(2)高栄養価野菜栽培のための調査・研究・技術開発

(3)農業法人等、生産受託者の発掘・提携

(4)生産受託者への技術指導

(5)農産物の生産・販売

(6)農産物加工品の生産・販売

■ファーム 神奈川県秦野市と藤沢市に各1カ所。岩手県陸前高田市に建設中(12年6月下旬完成予定)

■従業員 社員17人、パート57人(12年4月現在)

▽ドーム型ハウス植物工場

 水耕栽培システム。従来型の栽培スペースの無駄を省くため、らせん型丸テーブルを設置。レタスの成長に従い、中心部から周辺部に自動的に押し出し1個ごとの葉を広げるスペースを確保した。従来型より高効率で太陽光を確保し、地下水を活用し冷房・加温。昆虫と菌類による害虫類防除システムにより農薬散布ゼロ。直径30メートル、高さ5メートル程度で、1日約500パック生産する。降雪時もハウスに霧を吹き掛けることで回避でき、雪国でも設置可能。1基3千万円程度。
 
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